糸と欲

投稿日‐2021/05/23(Sun) タグ:その他

テストが終わりようやく荷が下りた帰路の途中、昼食を購入するためにドンキホーテに寄った。
いつもなら5パック入りになっている安い袋麺を買うのだが、それすらめんどくさく、温めるだけで出来上がる照り焼き弁当をかごに入れた。
このタイミングでふとレポートの存在を思い出した。
テストが終わって人がいい気分になってんのに邪魔すんなとか思いつつ、長くなるであろう夜を想定して明るめの絵具をかき混ぜたようなパッケージのzoneをかごに入れた。
その後、空腹に備えてカップヌードルのカレー味を手に取ったが、所持金が後わずかしかないことに気づき、中身を確認する。
そして残り100円近くしか使えないことが発覚し、カップヌードルは仕方なく棚に戻した。
夜食は諦めるかと思い、レジに向かおうとしたとき少し謙虚気味のPOPを見つけた。
そこにはなんと66円の味噌ラーメンが売っていた。
なんだこれは。さっきのカップ麺の1/3の値段じゃないか。
流石驚安の殿堂を名乗るだけあると思い、少し興奮気味にかごの中に入れた。

レジには低身でも頭の頂点が見えるほど背の低い年配の人が立っていた。
上からぶら下がっているアクリル板のせいで余計こっちの声が聞こえないのか、頭がアクリル板の下をくぐっていた。
これじゃあアクリル板の意味が無いだろとか思ったが、残り短い余生をこんなところで過ごしてる身にもなってみろと言われた気がして少し悲しくなった。

無事レジを通し、黄色い袋を提げながらドンキホーテに背を向け歩き出した。
いつか見たムンクの絵のような空が広がっていた。


深夜二時、味噌ラーメンを片手にキッチンへと向かった。
ゴミ箱には照り焼き弁当の死骸が転がっている。
スープ粉とかやくを準備し、お湯を注いでいく。
薄暗く蒸し暑い静寂に切り込みを入れるようだ。
お湯を敢えて少なめに入れてから蓋をする。
熱湯4分。普段お湯を入れてすぐ食べる人からすればこの時間は苦痛でしかない。
待っている間にTwitterを見たり音楽を聴いたりして誤魔化そうとしても意識は常にラーメンに支配されている。
ふと時計を見るがまだ2分しか進んでいない。

仕方ない。食べよう。
食べている間にも時間は経過していくという安直すぎる考えで自分を欺いた。
食欲を前に人類はここまで愚かになれるのか。
そんな理性すらも抵抗心を失い、いよいよ蓋を開けた。
蒸気が我先にと昇っていき、視界が一瞬白くなる。
漂う臭いは鼻の奥を強く突いている。
しかし、箸で麺を取ってみるとあろうことか繊維のように絡まっている。
メーカー推奨の方法に従っていないので当たり前ではあるが、それでも少し不安を覚えた。
カップヌードルはお湯を入れて時間が経たなくても簡単にほぐせるようにはなっているのだ。
しかしこのままでは前に進めないので、これも66円ラーメンの魅力ということにしておき、口に運んだ。

うまい。
小さくため息をつきながら率直にそう思った。
スープでも麺でもかやくでもない。
ラーメンというまとまりが美味いのだ。
こうして我を忘れて欲望のままにラーメンを食いつくした。
口に少し塩気が残っていたのでzoneを半分ほど飲んだ。
眠気が襲ってきたので吸い込まれるように落ちていった。
それではみなさん良い夢を。